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宮部みゆき「火車」

2016.12.17 19:20|読書感想文
今までなんとなく避けてたけどミステリー読むなら宮部みゆきは定番なので、ここは避けて通れないだろうとようやく手に取りました。ちなみに過去に読んだ宮部みゆき作品は「ブレイブストーリー」と「ICO」だけという偏りっぷりでした。



・読後にサクッと他の方の感想を読んでみると、「犯人目線の描写を一切せずに追わせるコンセプトがすごい!」という作品らしいのですが、個人的にはそんなことには一切気付かず、純粋に本間目線で喬子の謎を追うのに夢中になってました。
この「一見途方なく感じても、僅かに残された手がかりからなんとか糸を手繰り寄せ、真相(しかも正体不明の美女)にじわじわ近づいていく」というスタイルが大好きです。

・オチはようやく辿り着いた喬子に保が声をかける直前、という曖昧な終わり方で、一瞬「え? これで終わっちゃうの?」と思いましたが、すぐにこれで良かったんだろうなと思いました。
確かに喬子に聞きたいことはたくさんあるし、喬子が殺しに関わっている可能性は濃厚。でも保や本間が喬子を糾弾したり、あまつさえ逮捕するシーンなんかは、見たくない気がします。喬子がさめざめと泣いて詫びたり、あるいは整然と経緯を説明したり、もしくはようやく解放されたと安堵したり、または血相変えて逃げ出したり…という姿も、見たくない気がする。
本間と一緒に喬子を追う旅をしている間に、私も喬子の壮絶な人生や絶望を知ってしまったし、同時に僅かに残された人間的な部分を見てしまったせいで、喬子を責める気になれない…。
やった(と思われる)こと自体は酷いのに、冷酷な完全犯罪者という訳じゃなく、ちょくちょく人間らしいところをや脆い部分も描かれるのがズルイよな~。倒すべきラスボスと最終決戦!という感じがしない。

でもこの作品はそれでいいんだと思います。「事故を起こしたドライバーだけを責めて、その背景を無視すべきではない」「木だけを見て森を見ないようなことはしないでくれ」って、弁護士先生もあんだけ尺取って講義してましたし。

・喬子の人間らしいエピソード(確定ではないけどおそらく)は、「彰子のアルバムを友人に送ったこと」と「彰子の頭をピッピと同じところに埋めようとしたこと」、「住宅展示場の写真を捨てられなかったこと」、とかそのへんが顕著だと思いますが、個人的に一番印象に残ったのは、「婚約指輪に自分(喬子)の誕生石を欲しがったこと」です。
私はここで初めて喬子に切なさや親近感を覚えたので、本間さんが「初めて許しがたいと思った」と真逆の感想を抱いててビックリしました。自分は今まで「~しがたい」って文法を間違って覚えてたのかと思わずググったほど。
本間さんからしたら「殺して成り代わって彰子の代わりに甘い汁吸ってるくせに、自分の誕生石が欲しいなんてワガママふざけんなわきまえろ」って感じなんでしょうか。そう言われたらそうなんですけど。

でも私は、(もともと誕生石に拘りがないからそう思うのかもしれませんが)、誕生石っておまじないみたいなものだと思ってるんですよね。手芸店や雑貨屋で、ガラスの小皿に乗せられたパワーストーンを見てキャッキャしてる夢見る少女が、高級大人仕様になっただけというか。単なる乙女の憧れというか、まあ要するに私は誕生石を軽く見てる訳です。

だから喬子がエメラルドを欲しがったと聞いた時、「ああ、そういうのを重視する女の子らしいところもあるんだ」と、そこで初めて正体不明だった喬子の個性を見た気がしました。実際は「女の子だから」というよりゲン担ぎだったのかもしれませんが。
ともかく私が喬子の立場だったらすんなり「サファイヤでもダイヤでも(どうでも)いいよ☆ミ」とオッケーするところを、喬子はあえてエメラルドを推して和夫と喧嘩した。大事な時に、余計な衝突は避けるべきなのに。ただのエメラルドの指輪が欲しいのなら、結婚後にねだることだってできただろうに。それでもエメラルドの「婚約指輪」を欲しがった。
それは本当の名前を捨て別人に成り代わり、常に消える準備を整えていても、自分にだけ分かる「自分である証」を、ひそかに持っておきたかったのかな…と思えて切なくなりました。そういうところが浅ましい、と言われたらそれもそうなんですけど。

・あとはやっぱ倉田談の、「死んでてくれ、お願いだからお父さん死んでてくれ」ってとこですかね…。
喬子の必死な気持ちが分かりすぎて、本人がそう思っててもとても責める気にはなれません。むしろそこまで追い詰められた喬子が哀れだと思ったし、倉田そこで引くなよと思いました。父親の死を願ってしまうほど追い詰められていた、ってことでしょうに。
倉田はそのへんの事情知ってんだから、そこは後ろから抱きしめるなり手を掴んで辞めさせるなりして、一度落ち着かせてやれよと。所詮好きなのは喬子の綺麗な面だけで、一度汚いとこを見たらサッと突き放すんだから、勝手なもんだよな、とも。

でも倉田の見た喬子の血走った目、鬼のような形相というのが本当に凄まじかったのなら、引いちゃう気持ちも分かるので難しい。背負わなきゃいけないものがデカ過ぎるし、お坊ちゃまだしね。結婚するまで「本当の自分」をひた隠しにしてた喬子にも悪いとこあるし。
同じ「必死に父親の名前を探す」にしても、「泣きながら、辛そうに」探す姿だったら、少しは違ったのかもしれない。そんな風に感傷に浸る時期は、とっくに通り過ぎてたんでしょうけど。

和夫に破産申請を見せられた喬子がさあっと青ざめたのは、勿論「前の車を乗り捨て、持ち主を蹴落として必死で乗り込んだ別の車も、結局燃えていた」という絶望が一番でしょうが、「これでこの人も去っていくんだな」、って諦めもあったんだろうな。喬子にとって二重のトラウマだったと思うとなおつらい。

・キャラクター的には、やっぱり女の人が書いてるからでしょうか。
井坂さんの嫁、信子、郁美、富美恵とか、しっかりしてる女性キャラが多かった気がします。まあ全員がそうって訳じゃなくて、美容師のおばさんとかイヤなとこもありましたけど。
あとはとりあえず智がかわいかった…!かわええ~~~素直~~~~~いい子過ぎる~~~~~~!!!
お父さんのこと心配してしっかりしてていい子だよ~~~~~~~><!!!!
まあ年の離れた養子、っていうちょっと複雑な設定はどういう意図があったのかよく分かりませんけど。
あとラストでちらっと言ってたのは、もしかしてまちこせんせにフラグ立ってるってことなんでしょうか。
別にいいけど、本間の仲間や私生活周辺は地味にシリーズになって続きそうな雰囲気だと思いました。智に12歳になった時養子のことを話すとか(知ってそうだけど)、復職できたのかどうかとか、そのへんのことも特に触れられないまま終わったので。

・文章的には、
序盤の溶けかけた雪について
「子供たちが手ひどい裏切りにあったように文句を言っていた」
「たしかに子供たちからしたら、夕方から降り出して、朝になったら溶けている雪なんて、気を持たせるだけの嘘つき女と同じだ」
「遊びたかったのに」
みたいな表現がほほえましくてニヤニヤしました。その感覚、分かり過ぎてつらい。

あとどこかで、「お化け屋敷で角のたびにビックリする子供のように、いちいち出てきた物事に驚く訳にはいかない」みたいな比喩があったんだけど、これも可愛い。「子供」を比喩に使うとなんでも可愛くなるから卑怯だッ!

◆という読書日記でした。
23日にまでにあと7冊読めるかな~?
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