◎ネタバレ注意◎
・吉永南央「糸切り」
あの手この手で壁の絵を手に入れようとするジェイコブ氏は、よくある「立ち退きさせたい業者VS地元住民」の構図を彷彿させてあんまりいいイメージなかったけど、弓削さんの「今意地を張って守ったとして、その後は?」という問いは尤もだなと思った。本当に古いものを守りたいなら、ただそばに置いておくだけじゃダメなんだなって。焼き物講座が面白かった。
・宮部みゆき「この世の春」
この時代なら狐憑きとか祟りとかで片付けられそうな心の病を、持てる限りの知識と調査で解き明かしていくのが面白かった。今なら幼少期の虐待による人格分裂、多重人格、みたいな感じになるのかな。
ただお館様の方はある程度説明がついてるのに、その原因になった父の方は「呪い」としか言いようがないのは「えっこっちはファンタジーで済ませるんだ?」って思っちゃったな…。まあでも多重人格みたいな心の話は現代でも未知数な部分が多いし、呪いというのもその延長のようなものということなのかもしれない。
この時代の人にとっては御館様の病気も呪いもどっちも似たような怪奇で、
現代の感覚では「多重人格=未知数なところはあるがそういう病気」「呪い=ファンタジー」みたいな認識が一般的だと思うけど、
何百年後かには呪いの方もある程度説明付くようになってるのかもっていう。
単独で調査することの多い半十郎や、権力があり物分かりのいい老獪石田様&千吉とか事あるごとに死ぬんじゃないかと不安になってたけど無事でよかった。新九郎は乙…なんだけど、お館様をせっついて病を悪化させたという意味では相応の罰を受けたってことなんかなあ。でも新九郎が突っつきまわして事態をガッと悪化させたからこそクジャが派手に立ち回ることになって正体が露見した感もある。ずっと停滞したままだとクジャが隠密に慎重に事を進めて永遠に尻尾出さなかったような気もする…。
タキが御館様とくっつくのはまあ定番というかそこだよね~って感じだけど、たまに暴走しちゃう若先生ルートも楽しいし大正義幼馴染半十郎ルートも捨てがたかった…半十郎幸せになってくれ…。
あとお館様の豹変ぶりが文字で読んでもすごいから映像で見たいと思った。二次元でも三次元でも役者さんの演技が光りそう。
・畑中恵「むすびつき」
しゃばけシリーズ十七…だったかな?
前世、転生がテーマで切ない話が多かった。メタ的にはそう簡単には死なんやろと思ってるけど実際若旦那はいつ死んでもおかしくない病弱っぷりだしね…。
最後の話で呆気ないくらい簡単に夕助さん死んじゃったけど、前世の記憶を持ちながら転生しまくるというのは考えようによってはかなりエグくないか?自分が何度も死んだところを覚えてるって相当きつそうだしいつか発狂するんではと思ったけど、本人の心持次第で忘れることもできそうだしいいのかな…。
・麻耶雄嵩「友達以上探偵未満」
久しぶりの麻耶雄嵩。
とんでもブラック要素を期待してたけど今作はそうでもなく、かなりライト向け、キャラ萌え層向けって感じだろうか。しょーもない脱線や井戸端会議は女子高生らしい(?)おしゃべりを意識してたのかもしれないけど本当にしょうもなくて読むのに時間がかかってしまった。そのくせあおはともかくももも女子高生っぽくないっていう。
謎解き自体は面白かったし、友達でありライバルという唯一無二の存在でありながらべったりしすぎない二人の関係も好きだった。
・アーサー・コナン・ドイル「シャーロックホームズ全集4シャーロック・ホームズの思い出」訳:小林司 東山あかね 注・解説:高田寛
今回も短編集。分厚いけど一つ一つは読みやすかった。「黄色い顔」が好き。
原作ホームズって改めてちゃんと読んでみると思ってたよりワトソンがしっかりしてるというか、ホームズもワトソンをかなり信頼しててわりと対等な感じなのが意外だった。っていうほどホームズ派生の作品に触れてきた訳じゃないんだけど。
・乃南アサ「最後の花束」
主に女のどろどろを描く短編集。個人的には「祝辞」が印象的だった。表題作の「最後の花束」はやけに主人公のことぼかしてるなと思ってたら「あ~~~~そっちか~~~~」って感じ。「あなた」でも「貴方」でもなく「貴男」って書くのはそういうことか…。
提灯の話は旦那がダメすぎた…。不倫相手に反発したり妻のこと庇うポーズだけはとりながら子供二人生まれてる間もずっと関係続けるってクズすぎ。こういうの一番いやなタイプの男だわ~~と思いながら読んでた。「くらわんか」はアレルギーの話が出た時点であっ…って思ったけど、男側が気楽な関係だと思ってても女の方はそうとは限らないよねという話だった。
↑のドイル短編「マスグレーブ家の儀式」で、ホームズが「男は女が自分への愛を失っていることに気付かないものさ、自分は女にひどいことやっててもね」みたいなことを言ってたけどわりと真理だなと思う。「薬缶」や「枕香」も、女を積極的にバカにするというより当然のように軽く見てたら相手は思ってたよりずっと憎しみを募らせてたって感じ。
・風野真知雄「逃がし屋小鈴」
女だてらシリーズ久々に読んだら本格的に逃がし屋になってたらしい。メインキャラの日の助の盗癖とかまったく解決してないけどこのままいくの?今後役に立ったりするんかな?
そして小鈴父…完全に宗旨替えなの…?大勢の人間焚きつけといてそれはないだろお前…寝返ったと見せかけて潜伏作戦とかそういうんじゃなくガチだよねこれ?いやまだ可能性あるのか?ええ~…?
現時点ではとにかく危ない男として描かれてる遠山の金さん、今後どう動いていくのか楽しみ。
・有栖川有栖「虹果て村の秘密」
少年少女の探偵物語。明日香さん含め、三人ともフランクに仲良くやってるのが微笑ましかった。
・アーサー・コナン・ドイル「シャーロックホームズ全集5バスカヴィル家の犬」訳:小林司 東山あかね 注・解説:高田寛
ホームズシリーズの中でも特に有名な長編やっと読めたー!
「バスカヴィル」って濁音が多くてなんか仰々しいしゴシック風悪徳貴族が所有する秘密兵器処刑用番犬みたいなイメージばっかりあったけど正しくは「バスカヴィル家の(人間を狩る)犬」だった。
この二人もしかして夫婦なのでは?とはわりと序盤から思ってたので当たっててうれしい。しかしそれで誰が警告の手紙を書いたのかまでは頭が回らないのでやっぱ私には読者参加型謎解きとか絶対無理だなと思う。二度盗まれたブーツの謎はなるほどな~って感じだった。
・乃南アサ「鎖」
なんか滝沢がだいぶいいオッサンになってた。この人一巻では嫌な印象のまま終わったけどなんか知らんまに実はいいオッサンポジに移ってるよね…でも貴子も同じ感想言っててちょっとホッとした。滝沢さんは音道がいないとこではけっこういいオッサンなんだからもっと本人に言ってほしい。でも本人に対しては素直になれないのがデカオッサンの宿命か。非行少女を説得するところはいいオッサンだった。
個人的には監禁パートが長く、そのわりに音道がほとんど活躍らしい活躍できてなかったのが残念だったなあ。説得を頑張ったってことかもしれないけど。占い師の家で四人が異様な殺され方をした、っていう凄惨な事件のわりに犯人側がちんぴらに毛が生えたような夢見がちおじさんってのも。ホームレスやサラ金業者に変装したり忍者みたいに小型カメラを取り付けたり警察の有能っぷりの方が目立って、犯人側が暴力だけの無能集団に見えてしまった。
というか最後まで読んでも警察を誘拐するメリットがまったく分からなかった。死体の発見を遅らせたくても貴子を攫ったら同じことだし、結果的に貴子経由でボロボロ手掛かり与えちゃうし、死体を隠蔽する努力もしてなかったし、誘拐するくらいならまじで殺す方が簡単だったろう。
カヨコの誘い方はかなり強引でかつ独断でやったぽかったし、本人が無意識だったかは分からないけど、なんだかんだ最初から貴子に助けてもらいたかったんかなあ。無理やり巻き込むことで今の境遇から助けてもらいたかったのかもしれない。身をていして守ったのも積極的に見張りにも付いたのも、そういう意識が根底にあったからなのかも。
◆という読書感想文でした。
・吉永南央「糸切り」
あの手この手で壁の絵を手に入れようとするジェイコブ氏は、よくある「立ち退きさせたい業者VS地元住民」の構図を彷彿させてあんまりいいイメージなかったけど、弓削さんの「今意地を張って守ったとして、その後は?」という問いは尤もだなと思った。本当に古いものを守りたいなら、ただそばに置いておくだけじゃダメなんだなって。焼き物講座が面白かった。
・宮部みゆき「この世の春」
この時代なら狐憑きとか祟りとかで片付けられそうな心の病を、持てる限りの知識と調査で解き明かしていくのが面白かった。今なら幼少期の虐待による人格分裂、多重人格、みたいな感じになるのかな。
ただお館様の方はある程度説明がついてるのに、その原因になった父の方は「呪い」としか言いようがないのは「えっこっちはファンタジーで済ませるんだ?」って思っちゃったな…。まあでも多重人格みたいな心の話は現代でも未知数な部分が多いし、呪いというのもその延長のようなものということなのかもしれない。
この時代の人にとっては御館様の病気も呪いもどっちも似たような怪奇で、
現代の感覚では「多重人格=未知数なところはあるがそういう病気」「呪い=ファンタジー」みたいな認識が一般的だと思うけど、
何百年後かには呪いの方もある程度説明付くようになってるのかもっていう。
単独で調査することの多い半十郎や、権力があり物分かりのいい老獪石田様&千吉とか事あるごとに死ぬんじゃないかと不安になってたけど無事でよかった。新九郎は乙…なんだけど、お館様をせっついて病を悪化させたという意味では相応の罰を受けたってことなんかなあ。でも新九郎が突っつきまわして事態をガッと悪化させたからこそクジャが派手に立ち回ることになって正体が露見した感もある。ずっと停滞したままだとクジャが隠密に慎重に事を進めて永遠に尻尾出さなかったような気もする…。
タキが御館様とくっつくのはまあ定番というかそこだよね~って感じだけど、たまに暴走しちゃう若先生ルートも楽しいし大正義幼馴染半十郎ルートも捨てがたかった…半十郎幸せになってくれ…。
あとお館様の豹変ぶりが文字で読んでもすごいから映像で見たいと思った。二次元でも三次元でも役者さんの演技が光りそう。
・畑中恵「むすびつき」
しゃばけシリーズ十七…だったかな?
前世、転生がテーマで切ない話が多かった。メタ的にはそう簡単には死なんやろと思ってるけど実際若旦那はいつ死んでもおかしくない病弱っぷりだしね…。
最後の話で呆気ないくらい簡単に夕助さん死んじゃったけど、前世の記憶を持ちながら転生しまくるというのは考えようによってはかなりエグくないか?自分が何度も死んだところを覚えてるって相当きつそうだしいつか発狂するんではと思ったけど、本人の心持次第で忘れることもできそうだしいいのかな…。
・麻耶雄嵩「友達以上探偵未満」
久しぶりの麻耶雄嵩。
とんでもブラック要素を期待してたけど今作はそうでもなく、かなりライト向け、キャラ萌え層向けって感じだろうか。しょーもない脱線や井戸端会議は女子高生らしい(?)おしゃべりを意識してたのかもしれないけど本当にしょうもなくて読むのに時間がかかってしまった。そのくせあおはともかくももも女子高生っぽくないっていう。
謎解き自体は面白かったし、友達でありライバルという唯一無二の存在でありながらべったりしすぎない二人の関係も好きだった。
・アーサー・コナン・ドイル「シャーロックホームズ全集4シャーロック・ホームズの思い出」訳:小林司 東山あかね 注・解説:高田寛
今回も短編集。分厚いけど一つ一つは読みやすかった。「黄色い顔」が好き。
原作ホームズって改めてちゃんと読んでみると思ってたよりワトソンがしっかりしてるというか、ホームズもワトソンをかなり信頼しててわりと対等な感じなのが意外だった。っていうほどホームズ派生の作品に触れてきた訳じゃないんだけど。
・乃南アサ「最後の花束」
主に女のどろどろを描く短編集。個人的には「祝辞」が印象的だった。表題作の「最後の花束」はやけに主人公のことぼかしてるなと思ってたら「あ~~~~そっちか~~~~」って感じ。「あなた」でも「貴方」でもなく「貴男」って書くのはそういうことか…。
提灯の話は旦那がダメすぎた…。不倫相手に反発したり妻のこと庇うポーズだけはとりながら子供二人生まれてる間もずっと関係続けるってクズすぎ。こういうの一番いやなタイプの男だわ~~と思いながら読んでた。「くらわんか」はアレルギーの話が出た時点であっ…って思ったけど、男側が気楽な関係だと思ってても女の方はそうとは限らないよねという話だった。
↑のドイル短編「マスグレーブ家の儀式」で、ホームズが「男は女が自分への愛を失っていることに気付かないものさ、自分は女にひどいことやっててもね」みたいなことを言ってたけどわりと真理だなと思う。「薬缶」や「枕香」も、女を積極的にバカにするというより当然のように軽く見てたら相手は思ってたよりずっと憎しみを募らせてたって感じ。
・風野真知雄「逃がし屋小鈴」
女だてらシリーズ久々に読んだら本格的に逃がし屋になってたらしい。メインキャラの日の助の盗癖とかまったく解決してないけどこのままいくの?今後役に立ったりするんかな?
そして小鈴父…完全に宗旨替えなの…?大勢の人間焚きつけといてそれはないだろお前…寝返ったと見せかけて潜伏作戦とかそういうんじゃなくガチだよねこれ?いやまだ可能性あるのか?ええ~…?
現時点ではとにかく危ない男として描かれてる遠山の金さん、今後どう動いていくのか楽しみ。
・有栖川有栖「虹果て村の秘密」
少年少女の探偵物語。明日香さん含め、三人ともフランクに仲良くやってるのが微笑ましかった。
・アーサー・コナン・ドイル「シャーロックホームズ全集5バスカヴィル家の犬」訳:小林司 東山あかね 注・解説:高田寛
ホームズシリーズの中でも特に有名な長編やっと読めたー!
「バスカヴィル」って濁音が多くてなんか仰々しいしゴシック風悪徳貴族が所有する秘密兵器処刑用番犬みたいなイメージばっかりあったけど正しくは「バスカヴィル家の(人間を狩る)犬」だった。
この二人もしかして夫婦なのでは?とはわりと序盤から思ってたので当たっててうれしい。しかしそれで誰が警告の手紙を書いたのかまでは頭が回らないのでやっぱ私には読者参加型謎解きとか絶対無理だなと思う。二度盗まれたブーツの謎はなるほどな~って感じだった。
・乃南アサ「鎖」
なんか滝沢がだいぶいいオッサンになってた。この人一巻では嫌な印象のまま終わったけどなんか知らんまに実はいいオッサンポジに移ってるよね…でも貴子も同じ感想言っててちょっとホッとした。滝沢さんは音道がいないとこではけっこういいオッサンなんだからもっと本人に言ってほしい。でも本人に対しては素直になれないのがデカオッサンの宿命か。非行少女を説得するところはいいオッサンだった。
個人的には監禁パートが長く、そのわりに音道がほとんど活躍らしい活躍できてなかったのが残念だったなあ。説得を頑張ったってことかもしれないけど。占い師の家で四人が異様な殺され方をした、っていう凄惨な事件のわりに犯人側がちんぴらに毛が生えたような夢見がちおじさんってのも。ホームレスやサラ金業者に変装したり忍者みたいに小型カメラを取り付けたり警察の有能っぷりの方が目立って、犯人側が暴力だけの無能集団に見えてしまった。
というか最後まで読んでも警察を誘拐するメリットがまったく分からなかった。死体の発見を遅らせたくても貴子を攫ったら同じことだし、結果的に貴子経由でボロボロ手掛かり与えちゃうし、死体を隠蔽する努力もしてなかったし、誘拐するくらいならまじで殺す方が簡単だったろう。
カヨコの誘い方はかなり強引でかつ独断でやったぽかったし、本人が無意識だったかは分からないけど、なんだかんだ最初から貴子に助けてもらいたかったんかなあ。無理やり巻き込むことで今の境遇から助けてもらいたかったのかもしれない。身をていして守ったのも積極的に見張りにも付いたのも、そういう意識が根底にあったからなのかも。
◆という読書感想文でした。
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