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小野不由美「屍鬼」

2019.11.09 20:10|読書感想文
だらだら書いてたら微妙に長くなったので久しぶりに単独で。
大昔にアニメを観てたのでどういう話かはざっくり知ってたし登場人物も多いわりに把握しやすかった。ネタバレ注意。



・単純なゾンビVS人間ものではないとわかってるけど、「静信がヘラってなければヌルゲーだったのにな…」と思わずにはいられない。
村で特に権力のある御三家のうち一番手と三番手が真っ先に真相に気付いたんだから、そのまま結託して動いてたら勝ち確だったじゃんこれ。終盤の敏夫だけでも壊滅させるんだから。って思うとやっぱ屍鬼って本来は弱い生き物なんだなと思う。
日光を浴びると即アウト、遅刻=死で夜以外の活動は不可能ってのがきついよな~。人間に混ざって社会生活を送るのが難しい、かといって安定した収入がないと安全に休める場所の確保が難しい。
そして静信先生の小説難解すぎる…樅(もみ)が読めなくてしょっぱなからIMEパッド起動した…えっ皆これ普通に読めるの…?

・静信の主張「屍鬼が生きるために人間を襲うのは仕方ないよ(食物連鎖派)」までは分かるんだけど「それに人間が反撃するのは許せないよ」はどうしても納得できず、中盤の終わりくらいは何なんこいつと思ってた。人間が反撃するのもまた生きるためでは?黙って狩られろって??いたいけな中学生が死後の始末を自分でやるくらい追い詰められてるのに、おめーは全部知ってて説法するだけかよ!みたいな。

終盤の作中作でなんとなく分かった気がしたけど、静信の心境は「自分は善良で誠実であろうとしても世界は決められた役割以外求めない。外れるものは石を投げられる。だから自分はその枠外(=死)に行きたかった」…って感じなのかな。それで同じ「石を投げられる者」で、神に見放された者で、枠の外にいる屍鬼に、強烈な仲間意識を持った。屍鬼に同情していたというより同調、同一視していた感じがする。
だとすると「人間が屍鬼を攻撃するのは駄目」っていう一見筋の通らない主張が、「自分が攻撃されるのは嫌」っていう、きわめて単純、本能的な自己保身になる。自殺未遂をした静信は枠の中にいるのか外にいるのか今の位置があやふやだけど。

静信が偽善者扱いされるのにずっと違和感あったけど、静信は「どっちも傷つけあっちゃ駄目だよ、両方が生きる方法を模索しようよ」みたいなお花畑なことは言ってないんだよな。もっと鬼寄りなんだよな…。
静信も鈍い訳じゃないんだから敏夫が妻を人体実験に使ったことや郁子をけしかけたことを、「それほど敏夫が追い詰められてた」と簡単に推察できたろうし、友人という立場まで考えると自分が力になれなかったこと、一人で辛い実験をさせてしまったことを悔やんでいい場面でもある。
それでも敏夫を責めるばかりなのは、「自分の同胞(鬼)を攻撃したこと」に対する怒りが先に来ちゃったからだと思えば納得できる。敏夫と袂を別ってからも何か行動を起こす訳でもなく、真実を知りながら傍観するだけというのは屍鬼への消極的な協力と言っても差し支えないし。自分の手を汚すことを躊躇っていた臆病者というより、初めて見つけた同胞が敵陣営で混乱してたって感じ。

・終盤母親と寺男が殺される場面は「静信のとばっちりで殺されてひどい、可哀そう」と思う反面、彼らが静信に役割を押し付けた張本人であり、「肩書だけは立派なのに肝心な時は助けてくれない」という村人の憤りも尤もで自業自得にも見える。
でも母親も「室井の奥方」という役割に縛られていたといえるし、村人もほんの少し前に敏夫の捨て身のパフォーマンスでやっと屍鬼の存在を認めただけ。ここは紛れもなく人間VS人間で、世界が望む役割を迅速に演じなければどう思っていようと石を投げられる、枠の外に追い出されるという分かりやすい例だった。

静信が「結婚」という期待にだけは応えなかったのも、自分が誰かに「若御院の妻」と「跡取り」の役割を押し付けたくなかったからかな~。
母親についてもけっこう語るからマザコンかな?って最初は思ったけど、「室井の奥方」の役割について色々考えてたってことよね。自殺未遂の状況よく覚えてないけど(読み直そうにも分厚過ぎてどこか分からん)、「若御院まだ結婚しないんだね」「あんなことがあったから親も強く言えないんでしょう」みたいな会話があったから、もしかしたら見合い話とかが出始めたころだったのかもしれない。
その点敏夫はなんだかんだ尾崎家の通例通り村の外から嫁もらってるから、やっぱりちゃんと「世界の中」で生きている存在で、静信とは決定的に違っていた(と静信は思っていた)んだと思う。

父親も晩年になってから自分が役割を演じていたことに気付いて屍鬼のもとへ下ったけど、静信は敏夫の存在により高校あたりで気付いてしまったぶん絶望が早まったのかなぁ…。友達の新しい別の価値観に触れることで世界が広がるのではなく、世界の狭さを知って絶望が深まったのならなんとも皮肉な話。

・「正反対の存在」として敏夫の欠点も指摘されてたけど、報告を止めたことはたしかにそれなりに利があったしそれほどひどいやらかしだったとは思えなかった。基本的に有能。
でもその敏夫ですら結局村医者を継ぐことになってんだから、静信の絶望は「そんなに村が嫌なら出ていけばいいのに」で片付く問題じゃないんだろうな。村に戻る敏夫を見て「敏夫が無理なら自分なんてもっと無理」と感じたまである。

医療はどんどん進歩していくから敏夫は自分なりの工夫をする余地があるけど、坊さんの仕事で革新的な何かをやるのは難しいっていう、職業の違いからも静信の方が「役割を演じる」ストレスが大きかったのかもしれない。
敏夫は父親の応接室などを休憩室に改装して職員達に感謝され、先代と違って往診も嫌がらないと好評で毎日大繁盛。
静信は改宗した元信者にも寛大に接し、彼らを非難した父親に嫌悪感を抱いていたけど、現実的には父親のやり方が望まれている。善意で助けてくれる檀家を維持しなければ、寺は到底立ち行かないから…。

明確に静信が敏夫と自分を比較したり嫉妬したりみたいな描写はないけど、こういう色んな差を無意識に感じとってどんどん孤立していったのかなあ。なんというかこの二人、考えれば考えるほど出会わなかった良かった気がしてくる。それか敏夫が父親似の権威主義者でもうちょいバカなら、静信も能天気でいられたのかも…。

◆という感想文でした。
大昔に見たアニメでは夏野が起き上がってしかも人狼になってた気がするけど、原作では普通に死んでた。えらい大胆な改変したなと思うけど、夏野くんに特別な何かを期待してしまう気持ちはわからんでもない。かっこいいし。
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