いろいろ10冊感想文

2017.04.30 15:45|読書感想文
アナログ読書のいいところは、本を閉じるだけで「もうここまで読んだ」「あとこれくらいで終わる」と達成度が視覚でパッと分かるところだと思う今日このごろ。些細なことだけどけっこう大事だと思う。
以下作者ばらばら感想文。◎ネタバレ注意◎

・貫井徳郎「新月譚」


弱く愚かしく惨めな女の強くしたたかで切ない恋の物語。
木ノ内は本ッ当に最低だし「いいからこんな男さっさとこっちからふっちまえ!!!バカか!!!!」とたびたび和子を罵りたくなるんですが、この木ノ内という男が本当に最低なだけじゃないのがニクイ。甘やかして機嫌取るだけじゃなく、実力を認めて誰より作家としての咲良応援し、時に厳しい言葉をかけて背を押してくれる貴重な存在なので、引きずられる和子の気持ちも分かってしまうという…。
女を外見だけで判断しない、女に社会的地位があっても僻んだりしない、という女の地位を認める価値観は普通に尊いものだし。まあその割にバレバレのウソで浮気しまくるのは女を馬鹿にしてる、軽んじてると言われてもしょうがないんですが…でも微妙に違うんだよね和子…。

和子が木ノ内から与えられた幸も不幸も、すべてが彼女の糧となり原動力となり作家として成功したのだから、ベストセラー作家咲良レイカを育てたのは木ノ内と言っても過言ではない…というかまさにその通り。
けどずるずると関係を持ってしまう和子にも最低な木ノ内にも擁護的な目で見守れたのは、今後和子が作家として大成功すると冒頭で知っていたからというのが大きい気がする。これで和子が堕落して不幸になるだけじゃ本当に見てられないですからね…。
木ノ内の結婚や出産など、彼の人生の転機に何度も傷付けられながらも反発を繰り返し、情念を小説に書き連ねていく和子の切なさは見てて痛々しかったし、ちょっと涙ぐみました。

最後に敦子が和子との関係を知ってた…と明かされましたが、個人的には「やっぱりな」という感じ。和子だって季子だって気付いたんだし、ましてや何十年も連れ添った夫婦なら普通は気付くだろう。むしろ木ノ内が最初に和子に説明したのと同じように、敦子にも最初に説明してた可能性も高いと思ってた。
できれば敦子も和子のことを、不誠実な男にどうしようもなく惹かれてしまうがもう引き返せない戦友のように思っていてくれたらいいな…。不倫でも何十年も独身を貫いてたらもう本物だしな…。

・宮部みゆき「かまいたち」

いつものちょっと不思議な時代物シリーズ。
珍しく視点が変わり、陰謀渦巻く表題作「かまいたち」は今までにちょっと見ないタイプで新鮮だった。
あとはやっぱ姉妹屋の二作が面白かったな。三島屋のおちかを思い出したし、不思議話を集める大物まで出てきてますます似通ってた。この姉妹屋シリーズもっと見たい。
「騒ぐ刀」では刀鍛冶の国広の話が出てきて不覚にもにやけました。まああの国広と同一視するつもりはないですが、完璧ゆえに病み気質で乱心する国広と思うとちょっと萌えたヨ…。
それとは別に国信の守り刀としての働きもかっこよかったです。見た目は綺麗なのに刃が立っていなくて何も斬れない。しかし主の危機を察すると匕首などスパンと斬ってしまう。守り刀かっこいい!

・綾辻行人「十角館の殺人」

館シリーズはとにかく人気だったので前から読んでみたいと思ってた。図書館の蔵書には入ってるもののなかなか見つけられず、先日ちゃんと調べてみたら児童書の文庫本のとこにありました。表紙に学生7人のイラストが描かれてるのでキャラが把握しやすかったです。

守須の行動には若干の違和感も覚えつつ(ミステリ好きにはたまらないちょっとした非常時なのにコナンに同行せず趣味の絵に熱中してるとことか)、まったく疑ってませんでしたね…何なら守須が「ヴァン・ダインです」と言った時もまだ分かってなかった。「えっ!?じゃあ館にいたヴァンって誰!!?名前引き継いだの!!?」なんて間抜けなこと考えてました…。
館のヴァンが怪しいと思ったのも終盤も終盤、十一角のカップに気付いた時くらいです。たまたまカップの差に気付いて利用できるような人物。…と言ったら、屋敷を(親族が)所有していて、あらかじめ屋敷をチェックできるヴァンくらいでしたから。それを言い出すと最初のプラスチック板を一番自然に持ち込めたのもヴァンなので、半信半疑でしたけど。
真相に気付いたと匂わせる島田の存在と、最後に下された「審判」、どこか切なさの漂うオチも好みでした。

現実的に考えると、「6人には同行するよう見せかけて、外部には参加しないよう立ち振る舞う」というのはかなり無理があると思いますが、それだけに突拍子もないトリックが面白かったし、守須の台詞にはドキッとしました。
普通の学生なら「今度〇〇に泊まりにいくんだ~」「誰と?」「サークルのAとBとCと…」って会話を至るところでやってても全然おかしくないですしね。この時代はまだPCやメールが普及してないっぽいのでそこはスルーするとしても。

・今邑彩「少女Aの殺人」

まさか少女Aの告発がそのまま犯人=高杉の娘に繋がるとは思ってませんでしたが、加奈子がトコトン怪しくなるまでほとんど分かってませんでした…。
「十角館~」の守須と同様に、加奈子に対しても「自分から少女Aの告発の話題深刻な感じで振ってきたのにあっさり北海道旅行行っちゃうんだ?」とか思った程度でした。でも今思うと登場人物の少なさからしても加奈子しかおらんよね…。最初に教師目線で語られる加奈子の二つの苗字と、ちょっと複雑な家庭環境に着目していればすんなり分かったんだろうな。

不可解な文書と不気味な少女Aパートと、少しずつ謎が解けていく感じが、王道推理小説という感じで面白かったです。

・平山夢明「ミサイルマン」

初めての人なので取っ掛かりとして短編集読んでみたけど、三つまで読んで挫折。
オカルトや精神的にエグい展開は好きだし、一つ目の話のオチも好みなんだけど、物理的なグロやスプラッタが苦手な私には血や人体が破壊される描写はなかなかにきつかった…。私こんなにグロ耐性なかったっけ?って思ったけど、そういや小中学校の時は理科の授業で血管や心臓の構造習ってるだけでも握力なくなるタイプだったわ…。耐性ゼロだったわ…。

・麻耶雄嵩「あぶない叔父さん」

この作品を一言で表現するなら「おまいう」。
ちょくちょくいいことも言ってるのに最終的にはだいたい叔父さんが犯人。それも「うっかり相手を突き飛ばしたら相手が頭をぶつけて死んでしまった」パターンの多いこと!最後の「藁をもつかむ」では突き飛ばすどころか「うっかり踏み台の椅子を蹴飛ばしてしまった」ことになってて笑いました。
唯一おじさんが犯人でない「最後の海」では、「むしろ叔父さんが犯人だったらよかったのに」となるところが最高に皮肉だった。
犯行を黙ってる理由や経緯も…分かるものもあれば「なんでだよwwww」というのもあり…そんな叔父さんを純粋に慕って同情する主人公もうすら寒い怖さがあるし、主人公に対しては叔父さんは本当に「良いおじさん」なのも怖い。
犯行に及んでる際のおじさんは、本当はいったいどんな心境で、どんな表情をしているのだろうか?それが主人公に牙を剥く時は来るのだろうか。叔父さんのいくつもの犯行を知っている主人公は、おじさんにとってはすぐにでも消したい存在でしょうが、いつまで泳がせてもらえるのか…。いやでも叔父さんの言ってることは実は全部本当に事故だったのかも…?と、極限まで怪しいのに曖昧なまま終わってしまうところが一番怖いんだと思います。

ただ残念だったのは主人公の三角関係も曖昧なまま終わったことですかね。「選択しなきゃ…」と何度も言ってたのに結局決められず、「幽霊」の存在でお茶濁し。最後の事件が主人公を取り巻く環境に似てるから、これは「主人公はこのまま選択できず女二人を死なせることになる」という未来を示唆してるんでしょうか。

・五十嵐貴久「リミット」

要するに「数少ないヒントから時間内に自殺予告者を探して救い出せ!」という内容なので、ミステリで定番のショッキングな事件を期待して読むと肩透かしになる。
主人公&奥田といい、捜索に集まったリスナーといい、最後に下された処分といい、あまりにも綺麗すぎて予定調和を感じないこともないのだけど、たまにはこういう綺麗な物語もいいんじゃないでしょうか。私は好きです。
特に好きなのは、捜索隊のリスナーが「まあ気持ちも分からんこともないし」って零すところ。結局深夜三時に熱心にラジオ聴いてる若者なんて、たいてい皆孤独なんですよね。

でもぶっちゃけ奥田のラジオの内容がずーっと同じで(他人が生きようと死のうとどうでもいいけど、俺の五周年を邪魔したことは許さん謝れクソガキ!)、これ数時間ぶっ通しで放送して面白いのか?とは思った。正直私なら三十分くらいで「もうええっちゅーねんはよ次の話いけや」ってなると思う。

・伊藤計劃「虐殺器官」

ちょっと前にツイか何かで話題になってたので借りてみた。
個人的には近未来SFも軍事ものも馴染みがないし、作家は日本人だけど主人公はアメリカンゆえに「なんとなく聴いたことはあるけどちゃんと理解してるわけではない横文字」が多く、目が文章を上滑りする場面も多々。けどしっかり読んでみると、なかなか興味深い話が多くて面白かったです。心理学とか文学とか精神的な話とか、難しい話だったので完全に理解したとは言い切れませんが。良心だとか殺意だとか、あやふやな心の動きを論理的に説明しようとするとこうなるのか~って感じ。個人的には「感情は価値判断のショートカット」というのがすごくしっくり来た。
兵士が弱者を殺す時に躊躇する…という描写はあらゆる映画やアニメ漫画小説で見られますが、その躊躇(良心)を「倫理的ノイズ」と表現するのはあまりにも冷酷というか、戦争屋ならではの発想だなあと思った。

良心の制御もそうだけど、友情を感じる薬とか、痛みが分かるが感じないマスキング機能とか、そのせいで四肢をふっ飛ばされても戦い続けるゾンビ兵士とかはものすごい終末臭が漂ってた。あらゆる感情や感覚を制御して兵士をメンテナンスすることと、「虐殺の文法」を使うことに明確な違いがあるのかと問われるシーンはその通りだなと思ってしまった。自発的かそうでないかの差はあるけど、どっちも洗脳みたいなもんだからね…。

ジョン・ポールの狙い「アメリカをテロから守るために外に火種を撒く」というのは、正直最初の方で統計の話が出た時点で十分予想できた話(なんなら裏表紙のあらすじでもう分かる)だったので、そのまんまだったのはちょっと拍子抜けた。けどこの物語は、そこに至るまでの対話や主人公の心の変化を描写することが重要だったんでしょう。
オチは痛快…と言えば不謹慎になりそうだけど、これしかないという感じ。ずっと主人公が死にそうなオーラ漂ってたので、あっさり死にオチにならなかったのは良かった。でも近い将来死にそうな気もするし、ずっと罪を背負い続けるような気もする、どちらにせよバッドED。

・麻耶雄嵩「木製の王子」

シリーズものっぽいのにうっかり途中から借りてしまった。あらすじの「烏有」って地名かと思ってたわ…。
とりあえず読んでみたけど、主人公らしい烏有も、主要キャラっぽい安城も木更津も香山も、誰も魅力的に見えなくて途中で挫折。これはシリーズ途中から読んだからかもしれませんが。
それにしても主人公の烏有は女子高生を孕ませ結婚を迫られ会社でも公認カップルのような扱いなのに、未だに親に挨拶しに行かずめんどくさがって「家族って何だろう…」と物思いに耽ってる姿にドン引きしたので第一印象最悪でした。過去作でどんな大変な経験してどんな大恋愛したんかしらんけど、高校生孕ませたならさっさと親に頭下げにいけや…。
安城と烏有の取材先のやり取りも、どっちも互いに不満を溜めて内心グチグチ言っててどっちの株も下がっていく。

作中で冒頭(首発見)に戻ってきたとこまで読んで、ちょっと最後まで読めそうにないなと思ったので途中は飛ばしてオチだけざーっとみてきました。
完璧な家系図のために途中で子供を間引いてるんじゃないか、よそから補充してるんじゃないかとは思ってたけど、「魔の者」関連の発想は想像以上にトチ狂ってた。家系図をひっくり返すと何もないところから生じてるから魔!ってのもヤバイけど、ひっくり返すと交わってるように見えるからアウトー死んでくださーい!その下の世代も自動的にアウトでーす!ってすごい。

・道尾秀介「ラットマン」

犯人が分かりやすいタイプでその心理状態とかをじーっと見ていく形式の話かと思いきや、終盤からどんでん返しが3~4回くらいあって面白かったー!!
主人公が犯人→桂が犯人!?→!!!???
父親が犯人→母親が犯人!?→!!!???
という誘導にものすごく普通に乗っかって疑いもしなかった私、ものすごく優良な読者なんじゃないか…。これだけ全部引っかかってくれたら作者言うことないだろうな…。

主要人物の誰も殺人を犯してなかったという結果だけ見ればスーパーグッドEDでしたが、逆に言えば「誰も大切な人のことを信じられなかった」という、色々なところにわだかまりが残る切なすぎる結末。でも殺してなかったからこそ、希望や救いもちゃんと残される結末。
この人の話は過去アンソロ「ストーリーセラー」の短編「光の箱」しか読んだことありませんでしたが、どちらにも言えるのはロジックが繋がっていく爽快感や奇抜なトリックより、登場人物の希望や救いや切なさが心に残る温かいミステリだなーという感じがする。まだ二つしか読んでないので的外れかもしれませんが。

◆という感想文でした。
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